魚種ごとの反応
このGPS魚探画像からどんなことが解り、どんなことが推測できますか?
ボートはスパンカーを使ったエンジン流しにより船速0.2ノット程度で流しました。
魚探から発信する超音波の周波数は50キロヘルツで、画面右側からAスコープ表示、通常の魚探表示、そして海底付近の一部(50メートルの範囲)を拡大表示したものとなっています。
このGPS魚探画面はクロムツを釣っている合間にキャプチャー(撮影)したものです。
「この魚探は水深何メートルまで使えますか?」という質問を度々頂戴しますが、使用条件によって結果に大きな差が生じるので水深の値を明言することを避けるようにしています。
例えば、送受波器(振動子)の取り付け状況や装置本体の設定状況、さらに当日の使用環境によっても探知能力が大きく左右されることになるからです。
確かに手前船頭で釣り場の判断を行なわなければならないボートフィッシングにおいては水深や海底地形、さらにはお目当ての魚をキャッチできるかどうかは最も重要なことであり、その質問は理解できます。
ここで、周波数の違いによる到達距離、指向角、分解能をおさらいしておきましょう。
周波数は低いほど超音波が減衰しにくく到達距離が長くなり、探知可能な範囲の目安となる指向角(実際には発信強度が半分になる角度)は広くなります。逆に周波数が高いほど超音波が減衰しやすく到達距離が短くなり、指向角は狭くなります。これらをまとめると右表のようになります。
超音波の伝達にはこのような特性があるので、水深が深い場所の情報を得ようと思ったら低周波の方が有利となり今回も「LF (Low frequency)」つまり低周波となる50キロヘルツの方を使用しています。
感度調整については今回、魚探が最適な状態にて画面表示してくれる「Fishing」モード、つまりオート(自動)にセットしたまま使用しました。さらに水深が深くなるような場合にはマニュアル(手動)設定にて感度調整を行なうことをオススメします。
但し、むやみに感度を上げると、画面全体にノイズが発生しやすく、海底や魚群反応がノイズに埋もれて分別しづらくなるので注意が必要です。特に超音波の減衰が高周波に比べて少ない低周波では深場の探知に有利となる反面、指向角(捉えやすい範囲)が広くなるので他船から発信される超音波と干渉しやすくなります。
いずれにしましても、深場の淡い反応をキャッチするには魚探の能力をフルに引き出す必要があり、そのためには送受波器(振動子)は船底を貫通させるスルーハル方式にて取り付けることをオススメします。
話をクロムツねらいに戻しましょう。
海底から数十メートル上までを遊泳層としているクロムツをねらう上ではその魚群反応をキャッチするうえで海底拡大機能の活用がオススメです。
これは海底付近の反応表示を切り出し、縦(水深)方向に拡大して表示するので海底付近に分布するクロムツの魚群反応を見つけやすくなるためです。
魚探画面の最上部に繰り返し表示される分時マークは1色分の長さが30秒間の経過を示しており、今回の画面では1色と空白部分が9回繰り返しているので、クロムツらしき魚群を4分30秒間(30秒×9回)以上にわたってキャッチしていたことになります。
実釣当日、この魚群反応が出続けている間中、クロムツが釣れ続き、久しぶりの大漁を味わうことができました。
水深20メートルほどの魚礁周りで見つけた体長15センチほどのムツの群れです。ムツは仔魚から幼魚までは内湾の岩礁帯や潮溜まりで生活し、成長とともに深みへ移動する魚です。この映像ではムツの群れの中にアジやネンブツダイも混じっています。
現在はムツ科ムツ属にはムツとクロムツの2種があり、両者の判別は魚類研究者でなければ困難といわれるほど酷似しています。強いてあげれば、違いは体色くらいであり、ムツは金紫褐色、クロムツは黒紫褐色となります。しかしながら、水中で観察しても体色は判別しずらいので、本サイトでは赤ムツに対抗して黒っぽいムツということでクロムツと表記させて頂きました。釣りでクロムツを狙う時には水深100メートル以深に分布する成魚を狙うことになりますが、その水深でのダイビングは困難なので浅場に分布する幼魚の生態を参考にして頂ければ幸いです。
FURUNOフィールドテスター / DAIWAフィールドテスター / 月刊ボート倶楽部ライター
北は北海道から南は沖縄まで全国を飛び回りボートフィッシングを楽しむアングラー。スキューバーダイビングも経験豊富で、水中を知った上で行なう魚探の解説には定評があり、各地で行なうボートフィッシング講習も人気が高い。また、ボートフィッシングにおける安全面やルール、マナーの啓発にも力を入れており、自身が開設するウェブサイトやボート関連雑誌で古くから呼びかけている。著書「必釣の極意」、共著「魚探大研究」。